長野県木曽郡木曽町、山深い場所に建つ「釜沼温泉 大喜泉」。
・【その1 温泉編】釜沼温泉 大喜泉(長野県木曽郡)温泉分析書と実際の「湯使い」を分析。源泉浴槽の構造、流路ダイナミクス、ORP(酸化還元電位)から読み解く高評価の真実
・【その2 食事編】釜沼温泉 大喜泉(長野県木曽郡)食事編。薬膳料理と木曽・信州の食材、朝食・夜食まで実食紹介

前回の記事では、温泉分析書と実際の「湯使い」を中心に紹介
温泉については、源泉そのものの成分には大いに興味を持ったものの、源泉水風呂が常時新湯投入ではなく、利用者が水栓を開けて新湯補充する方式で、しかも「出しっぱなし禁止」。
温泉の「鮮度」を重視する私にとって、かなり不満の残る部分が正直ありました。
しかし、食事については評価がまったく違い、かなり気に入りました。
実際に一泊してみると、大喜泉が高い評価を集める最大の理由は、温泉そのものよりも、この食事と滞在体験にあるのではないかと思ったほどです。
私の宿泊時には、年配の女性グループや若い女性を含む宿泊客が比較的目立ちました。
もちろん一晩の観察だけで客層全体を語ることはできないが、野菜を多く使った少量多品目の献立、薬膳というテーマ、木曽・信州の地元食材、そして静かな宿泊環境。
こうした要素が支持されている理由の一つなのかもしれません。
※以下は2025年8月8日~9日に宿泊した際の内容です。献立は季節や仕入れによって変更されます。
大喜泉の「薬膳」は特殊な漢方料理という意味ではない
館内には、宿が独自にまとめた「薬膳」の説明資料が置かれています。
これがなかなか興味深い。

薬膳と聞くと、高麗人参、クコの実、生薬などを使った特殊な料理を思い浮かべがちだが、大喜泉の考え方は少し違う。
豆腐、味噌、玉ねぎ、大根、椎茸、じゃがいも、白菜、豚肉など、私たちが普段食べている身近な食材まで含めて、五味、五性、帰経 という薬膳の考え方で分類。
食べ物の「五性」
資料では、食材を体を冷やす側から温める側へ、寒性 → 涼性 → 平性 → 温性 → 熱性の5段階に分類。
暑い季節や体に熱がこもっているときには寒性・涼性の食材を、寒い季節や体が冷えているときには温性・熱性の食材を取り入れ、食生活全体の寒熱バランスを整えるという考え方。
食べ物の「五味」
もう一つが、酸・苦・甘・辛・鹹(塩味)という五味。
さらに中国古来の五行説による、木・火・土・金・水と、肝・心・脾・肺・腎
との関係も説明されている。
「帰経」という考え方
資料には各食材について「帰経」も記されている。
帰経とは、薬膳・中医学において、その食材がどの臓腑と関係すると考えるかを示す分類のこと。
例えば館内資料では、アスパラガス、独活、枝豆、かぼちゃ、クコの実、鶏卵、ごぼう、こんにゃく、昆布、里芋、椎茸、しそ、シナモン、生姜、白胡麻、じゃがいも、春菊、すいか、ズッキーニ、セロリ、たけのこ、そば、玉ねぎ、大豆類、大根、丁子、つるむらさき、唐辛子、冬瓜、豆腐、とうもろこし、トマト、ナス、なつめ、菜の花、日本酒、人参、八角、豚肉、白菜、ほうれん草、味噌、舞茸、三つ葉、みょうが、などが紹介されていた。
要するに大喜泉の薬膳は、「薬を料理に入れる」のではなく、「日常的な食材一つ一つの性質を考え、組み合わせて献立を作る」という発想。
なお、資料には各食材について健康上の働きも記載されているが、ここでは医学的な効果を保証するものではなく、あくまでも宿が採用している薬膳上の考え方として紹介します。
夕食
夕食の献立は次の通り。


前菜
そうめん南瓜の酢漬け
ゴーヤの梅肉和え
枝豆となつめの白和え
つるむらさきの胡麻和え
木曽産鹿のロースト
辛味噌ズッキーニの卵黄のせ
椀
木曽産とうもろこしのすり流し
焼物
あまごの塩焼き
台物
信州豚と信州茸の甘味噌焼き
揚物
茄子
モロッコいんげん
梅干し
バターナッツかぼちゃ
食事
新生姜の混ぜご飯
松本産赤味噌の味噌汁
甘味
松本産スイカ
薬膳コーラ
派手な高級食材を並べるタイプの旅館料理ではありません。
伊勢海老や鮑、霜降り和牛といった「分かりやすい豪華さ」ではなく、木曽産鹿、川魚、信州豚、茸、夏野菜、発酵食品などを多種類、少量ずつ食べさせる献立です。
そこに大喜泉らしさを感じる。
前菜6種。ここからすでに薬膳料理の世界

最初に提供されたのが前菜6種。
大皿の余白を大きく使い、それぞれを少量ずつ盛り付けています。

そうめん南瓜の酢漬け
シャキシャキとした繊維質のそうめん南瓜。
最初から重い料理を持ってこず、酸味のある軽い一品から始まります。

ゴーヤの梅肉和え
夏らしいゴーヤに梅肉。ゴーヤの苦味と梅の酸味を合わせた料理で、「五味」という考え方を料理として実感しやすい一品です。

枝豆となつめの白和え
白和えに枝豆となつめ。豆腐、枝豆、なつめという、館内の薬膳資料にも登場する食材が実際の献立へ組み込まれています。

つるむらさきの胡麻和え
濃い緑色が印象的なつるむらさき。これも薬膳資料に掲載されていた食材。

木曽産鹿のロースト
前菜の中で肉料理として存在感を出していたのが木曽産鹿。薄切りにした鹿肉。一品の量は少ないものの、山中の宿で「木曽産鹿」が登場するだけで土地とのつながりを感じる。

辛味噌ズッキーニの卵黄のせ
ズッキーニも館内の薬膳資料で解説されている食材。これを単に焼いたり煮たりするのではなく、辛味噌と卵黄を合わせています。

前菜だけを見ても、苦味、酸味、甘味、辛味、発酵食品、野菜、肉が意識的に組み合わされていることが分かります。
今回の夕食で、私が特に気に入った一品。
木曽産とうもろこしのすり流し
見た目は非常にシンプル。淡い黄色のすり流しの中央に具材を配置。
しかし、とうもろこしそのものの甘味が前面に出ていて、派手な調味で素材を隠す料理ではありません。

こうした料理を見ると、大喜泉の料理は「薬膳」を看板にしながらも、実際にはかなり正統派の和食的な素材使いをしていることが分かります。
「健康によさそうだから食べる」というより、普通に料理として美味しい。
ここが重要。
薬膳料理という言葉から想像するような、独特の生薬臭や苦味を前面に出した料理ではない。
台物は、信州豚と信州茸の甘味噌焼き
卓上で加熱して仕上げる。
豚肉、えのき、しめじなどの茸、かぼちゃなどが入り、味噌を絡めて焼く料理。
加熱が進むにつれて豚肉と茸から水分が出て、甘味噌と混ざり合います。
いわゆる旅館料理の定番的な「卓上鍋」とは少し違い、信州らしく味噌を主役にした構成。
館内資料では豚肉、茸、味噌もそれぞれ薬膳上の食材として説明されている。


焼物はあまごの塩焼き
山間部の宿で食べる川魚は、やはり雰囲気がある。余計な細工をせず、一尾をそのまま塩焼き。
薬膳というテーマがある一方で、こういう素朴な山の料理をきちんと入れてくるところも好印象。

揚物は野菜中心
茄子、モロッコいんげん、梅干し、バターナッツかぼちゃという組み合わせ。
面白いのが梅干し。梅干しまで揚物にしている。野菜中心なので、揚物でありながら比較的軽い。
添えられた調味塩でいただく。


肉や魚を次々と重ねるのではなく、夕食全体で野菜の比率がかなり高いのも大喜泉の特徴。
締めは新生姜の混ぜご飯と松本産赤味噌の味噌汁。
白飯に新生姜と胡麻。


一連の料理を食べた後でも重たく感じない。

そして、松本産赤味噌の味噌汁。

夕食の最後まで味噌、胡麻、生姜など、薬膳資料に登場する食材が自然に組み込まれていた。
甘味は松本産スイカと薬膳コーラ
甘味は松本産スイカ。
そして小さなグラスに入った薬膳コーラ。食事全体の最後まで「薬膳」というテーマを崩さないところが面白い。
食後にはコーヒーもいただきました。

信州木曽 すんきクラフトビール
夕食時にいただいたのが、信州木曽 すんきクラフトビール。
木曽地方には「すんき」という独特の発酵食品があります。カブを使うという点で京都の「すぐき」に名前が似るが、信州では赤かぶの葉などを乳酸発酵させて作る木曽の伝統食で、最大の特徴は塩を使わないこと。
大喜泉に置かれていた説明によると、この「すんき液」をクラフトビールへ利用しているらしい。
瓶の表示を見ると、
品目:発泡酒
アルコール分:5.5%
内容量:330mL
麦芽使用率:70%以上



原材料には、大麦麦芽、小麦麦芽、すんき液(木曽産)、木曽の天然水、ホップ、アイリッシュモスと記載されている。
単なる「地ビール」ではなく、木曽の発酵文化そのものを飲料に展開した商品。夕食との相性も含めて、旅先ならではの一本でした。
朝食も手を抜いていない
夕食が充実している温泉宿でも、朝食になると一般的な旅館定食へ戻るところは少なくない。大喜泉は違いました。
朝食にも一品ずつ説明があります。


主な献立は、大平(おおびら)、納豆麹、季節の漬物、味噌シーザードレッシングのサラダ、なめこの味噌汁、長野県産米。

さらに出来立てを食べてもらうため、あまごの開き、温泉を使っただし巻き玉子が後から提供される。
食後は、季節の信州ジャムと安曇野産ヨーグルト
有機栽培豆の挽き立てコーヒーでした。
木曽の郷土料理「大平(おおびら)」について
大平は木曽の郷土料理。鶏肉や根菜類を小さめに切って煮た料理。大喜泉の献立説明では、木曽では冠婚葬祭などでも食べられる料理として紹介されている。
派手ではない。
しかし、こういう料理こそ旅先ではうれしい。

日本全国どこの高級旅館でも出てくる料理ではなく、その土地で食べる意味がある料理だから。
納豆麹
地元「小池麹店」の麹と、木曽・開田で作られた大粒納豆を使った大喜泉オリジナルの発酵食品とのこと。納豆に麹や昆布などを合わせている。
妻は納豆が好物。これをご飯にのせる。

発酵食品をテーマとして見れば、夕食の味噌、すんき、朝食の納豆麹まで一泊二日を通して一本の線でつながっています。
味噌シーザードレッシングのサラダ
朝から野菜量もしっかり。
ドレッシングにも地元の味噌を使っている。
「薬膳だから野菜を食べさせる」というだけではなく、味噌をドレッシングへ仕立てるなど、食べさせ方にも工夫がある。

大粒のなめこを使った味噌汁。そして興味深いのが、出汁に温泉水を使っていること。
大喜泉は温泉を浴用・飲用だけでなく、料理にも利用している。

温泉の記事では「浴槽までどれだけ分析書に近い状態を維持できるか」という視点から厳しく評価した。
しかし食事では、源泉が別の形で宿の個性になっています。
朝食の主役は後から登場。献立には、「後出し、出来立てを食べてもらいたい」
と書かれている。これは良いですね。
最初から全部並べて放置するのではありません。
あまごの開き
前日の夕食では塩焼きだったあまご。翌朝は開きとして登場。
しかも、前日のうちに開いて昆布締めしておくという手間をかけている。
同じ魚を朝夕で違う料理として食べさせる。こういう献立設計は好印象。


温泉を使っただし巻き玉子
もう一品が、温泉を使っただし巻き玉子。温泉水で出汁を取り、その出汁を使って巻くとのこと。しかも出来立てを後出し。
ふんわりした玉子を温かいうちにいただけます。
豪華な食材ではありません。
それでも、朝食の満足度を上げるのはこういう一手間。

食後にはヨーグルト。季節の信州ジャムを添えています。
そして有機栽培豆による挽き立てコーヒー。

夕食から朝食まで、量で圧倒するのではなく、多品目を少量ずつ食べさせる構成でした。
夜食まで用意されている
大喜泉では夕食と朝食だけで食のサービスが終わりません。
夜にはセルフ方式で、おにぎりと味噌汁が用意されていた。
夕食をしっかり食べた後なので「必要ない」と思う人もいるでしょう。
しかし温泉に何度も入り、夜が長くなれば、ちょっと何か食べたくなることがある。
そんなときに小さなおにぎりと味噌汁。
高価なサービスではないが、宿泊客側からすると、こういうものが妙にうれしい。
好印象。

夜間には飲料とアイスクリームをセルフ販売
館内には冷蔵ショーケースが置かれ、飲料をセルフ販売。
隣にはアイスクリームのストッカーがある。
アイスクリームは1個400円。



地元食材を意識した商品もあり、そば・えごまを使ったものについては、「若旦那おすすめ! そば・えごま 実が入っていてつぶつぶがおいしい!」という手書きのPOPも。
大規模ホテルの売店とはちょっと違います。
宿側が「これを置きたい」と思ったものを少量並べている感じ。
こういう手作り感は宿の雰囲気によく合っている。
大喜泉の食事が評価される理由
今回一泊して、大喜泉の人気について自分なりに納得した部分がある。
私は温泉そのものについては、かなり厳しい評価をしました。
しかし食事は違う。特に印象的だったのは、「薬膳」という言葉を単なる宣伝文句で終わらせていないこと。
館内には五味・五性・帰経を説明する資料を用意。
その資料に登場する、なつめ、ゴーヤ、つるむらさき、ズッキーニ、とうもろこし、生姜、豚肉、きのこ、味噌、胡麻、豆腐、などが実際の献立へ次々と登場します。
さらに木曽・信州という土地も意識されている。木曽産鹿、木曽産とうもろこし、あまご、信州豚、信州茸、松本産赤味噌、松本産スイカ、木曽のすんき、長野県産米、地元の麹、信州のジャム、安曇野産ヨーグルトといった食材・食品が一泊二日の中に組み込まれている。
薬膳+郷土食+地元食材+発酵食品
これが大喜泉の料理の核なのでしょう。
「健康料理」だけではない。普通に料理として美味しい。
薬膳料理を評価するとき、私はここが最も重要だと思います。体に良いと言われても、美味しくなければ食事としての魅力は半減します。
大喜泉の場合、薬膳だから食べるのではなく、料理として食べて美味しく、その背景を知ると薬膳という考え方がある。
特に木曽産とうもろこしのすり流しは印象に残りました。
鹿肉、川魚、信州豚といった地域性のある素材も使いながら、野菜料理を多く組み込み、食後に重たさを残しにくい献立。
私が宿泊した際に女性客が多く見えたことも、こうした食事内容と無関係ではないのかもしれません。
館内の雰囲気も食事とよく合っている
館内の造り
建物内部は木材を多く使い、太い梁を見せた造り。








豪華なホテルという雰囲気ではありません。囲炉裏風の空間や大きな木のテーブル、本棚などがあり、山中の温泉宿らしい落ち着きがあります。
外には椅子を置いた休憩スペース。

すぐ裏手には渓流が流れている。

部屋も和室中心。
私の滞在時、午後5時過ぎで25℃、湿度64%程度。



真夏の8月ながら、山間部らしい環境。周囲には商店街も歓楽街もない。
聞こえてくるのは川の音と自然の音。
食事をして、温泉に入り、また休む。
そういう滞在に向いた宿です。
料理だけでなく「ちょっとしたサービス」が効いている
大喜泉では、温泉分析書の説明、夜食のおにぎりと味噌汁、飲料のセルフ販売、アイスクリーム、館内の薬膳資料、食事ごとの詳しい献立説明など、細かなサービスが多い。
一つ一つは高額なサービスではありません。しかし、宿泊客からすると、「自分たちを楽しませようとしてくれている」という印象につながる。
温泉旅館の評価というものは、泉質や客室面積だけでは決まりません。
この積み重ねは大きいと思います。
大喜泉 食事編総括
釜沼温泉 大喜泉の食事。私はかなり気に入りました。派手さではなく、食材の意味、地域性、発酵、季節感、そして調理のひと手間で満足させる料理です。
夕食では、木曽産鹿、木曽産とうもろこし、あまご、信州豚、信州茸、夏野菜。
朝食では、木曽の郷土料理「大平」、納豆麹、味噌、温泉水を使った料理、あまごの開き。
さらに木曽の発酵文化を生かした「すんきクラフトビール」。
これらがバラバラに存在するのではなく、大喜泉が掲げる「薬膳」という考え方の中で一つにつながっています。
温泉については、私の評価基準である「源泉の鮮度」という点で不満が残りました。
一方で、料理・接客・山中の静かな環境を含めた宿泊体験については高く評価します。
そして、口コミで大喜泉を高く評価する人が多い理由についても、食事を終えた頃にはかなり納得していた。
大喜泉は、「温泉だけ」を目的に行く宿というよりも、薬膳料理を中心に、木曽の自然の中で静かに一泊することを楽しむ宿。私にはそう感じられた。
●釜沼温泉 大喜泉
【商業施設・飲食店訪問17,000店強】
■全国のラーメンに関する記事一覧(食彩品館グループ記事)
■うどん、そば、冷麺、焼きそば、パスタ(食彩品館グループ記事)
■鮮魚と寿司(食彩品館グループ記事)
■和食(ランチ含む)に関する食彩品館.jp記事
■肉系(食彩品館グループ記事)
■和食(魚・肉記事除く)記事一覧
■食べログ記事一覧
https://tabelog.com/rvwr/shokusaihinkan/visited_restaurants/list
★食彩品館.jp直近記事一覧34,000超記事
お勧め記事
↓ ラーメン実食記事一覧(画像クリック)

↓うどん・そば・パスタ・麺類に関する食彩品館記事(画像クリック)

↓食事 鮮魚と寿司に関する食彩品館.jp記事(画像クリック)

↓ 肉に関する記事一覧(画像クリック)

↓ 和食に関する記事一覧

↓ 飲食店及び食事に関する記事(画像クリック)


