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・温泉の評価と白金豚,花巻ひとめぼれ,足元湧出泉,温泉分析書解説
鉛温泉 藤三旅館について
岩手県花巻市に位置する鉛温泉「藤三旅館」は、開湯600年の歴史を有する木造温泉旅館である。
昭和16年に建築された総けやき造りの本館は、現代の建築技術では再現困難とされる構造を維持しており、宮沢賢治ゆかりの宿としても知られている。
作品内での言及
『なめとこ山の熊』: 童話の中に「鉛の湯(なまりのゆ)」が登場し、「腹の痛いのにも利けば傷もなおる」と描写されています。作品に実名で登場する宿は藤三旅館が唯一とされており、これが賢治にとって馴染み深い場所であった裏付けとして引用されます。




旅館部の客と湯治部の客は駐車場の位置から差がある。旅館前の駐車場は旅館部宿泊者専用。



1. 藤三旅館の温泉について
同館の公表資料および温泉分析書に示された客観的数値に基づき、温泉の配湯運用の実態、組成特性、および提供される食事の原材料について検証を行う。
温泉の配湯運用および組成分析
同館の温泉は、全浴槽において加水、加温、循環ろ過、および塩素消毒を行わない「源泉100%掛け流し」を標榜している。
温泉は一言でいうと「成分は薄いが、自家源泉をうまく組み合わせて適温に調整されている単純温泉で、湯守技術レベルの高さが伺える老舗の名泉」。
しかし、各浴室における源泉の具体的な運用方法および成分データを精査すると、その実態は単一源泉の自噴利用にとどまらず、温度調節を目的とした混合運用が主流となっている。
▢「白猿の湯」における混合運用の実態
同館の象徴的な浴槽である「白猿の湯」は、平均水深約125cmの立位入浴構造を持ち、古くから足元湧出泉として認知されてきた。
※足元湧出泉とは、湧出地に浴槽を造った温泉で、酸化されていないフレッシュな湧出仕立ての湯が魅力で、全国でも30数か所しかないとされる。
しかし、令和5年11月7日付の温泉分析書によれば、本浴槽は「鉛温泉 白猿の湯+桂の湯+下の湯」の3源泉を集約した混合泉として運用されている。


浴槽温度を適温(40.3℃)に維持するため、基礎となる「白猿の湯」に対し、「桂の湯」を30~40%程度、「下の湯」を20~30%程度、湯守の調整によってブレンドしている旨が、温泉分析書別表の「成分に影響を与える項目」欄に明示されている。
このブレンド比率まで表示されていることについては感心する。
【温泉分析書データ:白猿の湯(混合泉)】
源泉名: 鉛温泉 白猿の湯+桂の湯+下の湯(混合泉)
湧出地: 不詳
泉質: 単純温泉(低張性弱アルカリ性温泉)
泉温: 源泉 40.3 ℃ / 使用位置 40.3 ℃
水素イオン濃度(pH): 8.2
※昔ペーハー、今はピーエッチ。
ラドン(Rn)含有量: 1.43×10⁻¹⁰ キュリーラドン/kg(0.39マッヘ/kg)
湧出量: 不明(掘削・揚湯・自噴等の別も不詳)
分析年月日: 2023年(令和5年)11月7日
【基準値との対比および専門的見解】
地下から沸き出る鉱水やガスのうち、湧出時の温度が25℃以上、または環境省が定める特定の成分(ガスを含む)が規定量以上含まれていることで温泉と定義される。
その中から鉱泉分析法指針で定められた溶存物質総量、水素イオン、特定の陽・陰イオンなどが一定以上含まれると「療養泉」として泉質名がつき、適応症表示が可能となります。
温泉基準値以上(温泉法第2条別表による):
泉温は40.3℃であり、温泉基準値(25℃以上)を満たす。
ただし、その他の含有物質項目はすべて、温泉法が定める「常水と区別する限界値」未満である。
療養泉基準値以上(鉱泉分析法指針による):
泉温は40.3℃であり、療養泉基準値(25℃以上)を満たす。(温泉基準と同様)
溶存物質総量は 0.3912 g/kg であり、各成分ともに、療養泉の定義限界値未満である。
したがって、泉質名に伴う「泉質別適応症」は該当なしとなり、一般的適応症(筋肉や関節の慢性的痛み、冷え性、疲労回復など)のみが認められる。
人工的な熱量操作(加温)を行わずに40.3℃の適温を維持している点は、天然資源の特性を活かした運用として評価できる。
溶存物質が非常に薄いため、身体への負担や湯あたりが少なく、中長期的な保養に適した組成特性である。
しかし、温泉界における「足元湧出泉」の定義を、他源泉の混入がない無酸化状態の単一自噴泉と厳格に規定する場合、上部または側面から他の源泉を合計50~70%混在流入させている本浴槽の運用形態は、純粋な足元湧出泉としての定義を満たしていないと解釈するのが妥当である。
液体湧出の傾向もあり、単一源泉の自噴を期待する利用者にとっては、事前の認識と乖離が生じる可能性がある。
浴槽はふたつで、一つが立ち湯(白猿の湯+桂の湯+下の湯混合泉)で、小さい浴槽は下の湯源泉と思われる。



浴槽画像は施設の許可の上、撮影しています。
成分が薄くてしかも混合泉ということでガッカリしたものの、入浴すると立ち湯特有の身体全体への水圧のかかり具合が絶妙で、血行促進やむくみ解消が期待できるほか、浮力によって関節や筋肉への負担が軽減され、高いリラックス効果をもたらす。
こういった温浴感と、薄い成分のおかげで刺激の少ない透明感のある湯色の相乗効果で、気持ちの良い入浴ができる。
「泉質が良い」ではなく、「気持ちの良い入浴ができる」と表現したい。
「桂の湯」「白糸の湯」「銀の湯」における配湯状況
「白猿の湯」以外の浴槽である「桂の湯」「白糸の湯」「銀の湯」の3箇所には、すべて同一の混合源泉が配湯されている。
【温泉分析書データ:桂の湯・白糸の湯・銀の湯(共通混合泉)】
源泉名: 鉛温泉 桂の湯+下の湯(混合泉)
湧出地: 不詳
泉質: 単純温泉(低張性弱アルカリ性温泉)
泉温: 源泉 48.2 ℃ / 使用位置 43.0 ℃
水素イオン濃度(pH): 8.2
ラドン(Rn)含有量: 1.43×10⁻¹⁰ キュリーラドン/kg(0.39マッヘ/kg)
湧出量: 不詳
分析年月日: 2023年(令和5年)11月7日
【基準値との対比および配湯上の留意点】
温泉基準および療養泉基準:
泉温は48.2℃で基準を満たすが、溶存物質総量 0.3912 g/kg、および各単一成分はすべて温泉法および鉱泉分析法指針の定める定義限界値未満であり、成分的には非常に希薄な湯質である。
運用形態: 48.2℃の熱量を持つ「桂の湯」を基礎とし、浴槽温度を適温にするため、別源泉である「下の湯」を20~30%程度ブレンドして供給している旨が、温泉分析書別表に明示されている。これは白猿の湯同様に、当館が真面目な表示をする施設だということが見て取れる。
温度調整のために水道水(加水)を用いず、温泉資源同士の配合によって熱量を制御している点は評価できる。
肌への刺激が少ないマイルドな湯質である。
しかし、館内の主要な浴槽がすべて同一の混合源泉(桂の湯+下の湯)で運用されている点は、各源泉が持つ単一の個性や組成差を求める愛好家にとっては、一様で画一的な配湯運用であるとの印象を拭えない。
浴場内における撮影制限とコンプライアンス
「白猿の湯」を含め、浴室および脱衣所入口には「撮影禁止」の掲示がなされている。
脱衣所や浴場内への撮影機器の持ち込みは、他利用者のプライバシーを著しく侵害する行為であり、防犯上の観点からも厳格に制限されるべきものである。
インターネット上には当該浴槽の画像が散見されるが、法令遵守および公序良俗の観点から、宿側の規定を遵守し、事前に正式な許可を得るなどの適切な手続きを経ることが不可欠である。
私は「どうしても撮影したい」と懇願し、なんとか許可をいただきました。浴槽画像をSNSにアップしている皆さんはどうやって許可を取ったんだろうか。


2. 食原材料および調理の検証
同館で提供される食事について、品質、調理技術、および衛生・表示の観点から検証を行う。
▢ 夕食:「白金豚」に注目
夕食における主たる原材料として、地元花巻産の銘柄豚「白金豚(はっきんとん、プラチナポーク)」が「花巻白金豚の季節鍋」として提供される。
白金豚は母親にランドレースや大ヨークシャー、父親にバークシャーを持つ三元豚です。
先日記事にした「Nの隠れ家(愛知県)金アグー」でも白金豚のことを触れたが、脂身の美味しさは「あぐー豚・金アグー豚」に匹敵するという銘柄豚。「岩中豚(岩手中央畜産)」と合わせて是非とも実食したいと思っていた地元岩手の貴重品種。
・山猫軒本店(注文の多い料理店)で白金豚実食
食肉の品質特性として、白金豚は筋繊維のきめが細かく、特筆すべきは脂質(脂肪組織)の融点の低さと、それに伴う特有の甘み、旨みである。
実食における肉質の仕上がりおよび脂身の風味は非常に良好であり、地場が誇る高付加価値な食肉原材料としての品質を十分に満たしている。














▢ 朝食:構成および調理の実際
朝食は、和食のお膳形式で一斉に提供される。
台物(温物): 湯豆腐 卓上固形燃料を用いて適温に加熱する。四角く切り出された豆腐に、水菜、人参、椎茸が添えられ、昆布主体の澄んだ出汁とともに供される。適切な熱量管理が行われている。
焼物: 鮭の塩焼き 切り身には適切な焼き目が施され、大根おろしとはじかみが添えられている。皮目の仕上がりも良好である。
小鉢・皿盛り(副菜類):
ゼンマイやシメジなどを用いた山菜・キノコ類の和え物:山の恵みを活かした薄味の仕立てである。ただし、これらの地場産・国産等の明確な原産地表示や証明は確認できない。
イカの刺身(明太子和え):イカの表面に格子状の鹿の子包丁が細かく施されている。この調理技術により、咀嚼時の適切な食感と和え衣との絡みが確保されている。
笹かまぼこ、ひじき煮、明太子、香の物。
食事・汁物・デザート: 米は地元花巻産の「ひとめぼれ」が提供される。粒立ちが良く、適度な炊き上がりである。食後にはベリーソースを添えたヨーグルトが配置されている。









【食の総評】
食品衛生および温度管理の基本である「温熱供給すべきものは加熱し、冷涼供給すべきものはその温度を維持する」という原則が守られており、調理の基礎水準は満たされている。
しかし、構成内容および使用原材料を俯瞰すると、全国の温泉旅館で一般的に見られる定番の範疇にとどまっており、この土地、あるいはこの宿でしか成立しない独自の工夫や、傑出した技術・原材料の採用は認められない。
確実な調理がなされている反面、表示の明確化や、さらなる特色の打ち出しが望まれる。
施設概要
施設名: 花巻温泉郷 鉛温泉 藤三旅館
所在地: 岩手県花巻市鉛字中平75-1
連絡先: 0198-25-2311












▢岩手,夏油温泉,大沢温泉,鉛温泉,花巻周辺,遠野観光2024年10月,2025年8月盛岡追記
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