★食べログ記事をアップしました↓
■ 大量調理施設マニュアルの遵守と大型旅館における宿命
今回は大手旅行会社のツアーによる宿泊であるため、選択肢に制限がある点はあらかじめ織り込み済みである。
大型旅館に宿泊する際、常に直面するのが「大量調理施設」としてのオペレーションの壁、およびそれに伴う料理の質的限界。
厚生労働省が定める「大量調理施設衛生管理マニュアル」を厳格に遵守するということは、加熱管理(中心温度75℃・1分間以上など)や二次汚染防止、ハザード制御を高度に担保することを意味する。
しかし、これは食材への過加熱や、一括調理・時間経過による官能評価(食感や風味)の低下を招きやすく、ある程度「料理の美味しさ」を犠牲にせざるを得ないトレードオフの関係にある。
この構造的特性を念頭に置き、提供された料理の検証を行った。
■ 夕食検証:お品書きにみる構成と実態









先付・小鉢・小皿
胡麻豆腐(山葵、美味出汁)、下仁田産お刺身蒟蒻(シークリスタル、酢味噌)、上州香麦豚のローストポーク(レタス)が配膳されている。
ローストポークは、地域ブランド豚(上州香麦豚)を使用しており、肉質自体は悪くないが、一括スライス・盛り付け後の時間経過による乾燥を完全に防ぐには至っていない。
刺身蒟蒻の食感の良さは良いものの、旅行食として食べ飽きた感あり。
造り・凌ぎ
海老、鮪、芽物一式。上州うどん(薬味、浅月、生姜、めんつゆ)が並ぶ。
解凍のコントロールは平均的。
台の物・鍋物
陶板焼は「榛名豚燻りステーキ(バター、もやし、じゃが芋、パプリカ他、ステーキソース)」。
寄せ鍋仕立は「榛名地鶏つみれ、白才、絹豆腐、椎茸、五目稲荷、蟹爪、葱、水菜、季節麩、鍋汁」。
ここで注目すべきは「榛名地鶏」の表記である。地鶏登録品種名は「上州地鶏」であり、「榛名地鶏」の登録は見つからない。
推定、地鶏ではない銘柄鶏(ブロイラーのこだわり肥育銘柄)の「榛名若どり」か、上州地鶏の書き間違いと思われる。このあたりは絶対に曖昧にしてはいけない表示なので、当ホテルのコンプライアンス姿勢を疑う。
焼肴・食事・水菓子
鰆西京焼、きのこご飯、沢庵・南瓜たまり漬け・辛子茄子、絹豆腐・なめこ・茗荷の田舎仕立ての留椀、そして杏仁豆腐へと続く。
全体として、マニュアルに基づいた確実な加熱と、大量配膳を前提とした効率的なメニュー設計であり、驚きはないものの安全性は担保されている・・と思いたい。
■ 朝食検証:定番構成における加熱コントロール





ジュース、ヨーグルト、茶碗蒸し、サラダ、小鉢(子持ち昆布、玉子焼き、そめ卸し)、鮭チャンチャ焼風(鮭、玉葱、アスパラ、もやし、パプリカ他)、湯豆腐(豆腐、水菜、葱、榎木茸、ポン酢)、焼き海苔、ご飯、味噌汁、香の物という定番の構成である。
卓上で火を入れる「湯豆腐」は、冷めた状態で配膳せざるを得ない大型旅館のオペレーションにおいて、客席で「最終加熱」を行わせることでマニュアル上の中心温度管理と、客側への「出来立て感」の演出を両立させる合理的なシステムであると判断できる。
◇ 温泉分析書から読み解く物理化学的成分減衰のメカニズム
当ホテルは「黄金の湯」と「白銀の湯」の両方を堪能できると謳っているが、温泉法および実際のバルク成分の状態を客観的・学術的に検証すると、極めて厳しい現実が浮かび上がる。
◇掲示書に見るスペックの実態
温泉分析書コメント
黄金の湯
1.源泉名
総合湯(混合泉)(伊香保温泉)
2.湧出地
不明(※添付の温泉成分等掲示表には記載がありません)
3.泉質
カルシウム・ナトリウム-硫酸塩・炭酸水素塩・塩化物温泉
4.泉温 ℃ 源泉40.9 ℃ (利用施設42 ℃)
5. p.H.6.4
6.ラドン(Rn) 無し
7.湧出量 不明
8.分析日 1997年7月18日
9.温泉基準値超え成分(温泉法による)
溶存物質(ガス性のものを除く)1,181.4 mg/kg (基準値1000mg/kg以上)
成分名: メタけい酸177 mg/kg (基準値50mg/kg以上)
成分名: メタほう酸 7.7 mg/kg(基準値5mg/kg以上)
10.療養泉基準値超え(鉱泉分析法指針による)
溶存物質(ガス性のものを除く) 1,181.4 mg/kg(基準値1000mg/kg以上)
11.浴用の適応症
この温泉固有の適応症: 動脈硬化症、きりきず、やけど、慢性皮膚病、虚弱児童、慢性婦人病
温泉の一般的適応症: 神経痛、筋肉痛、関節痛、五十肩、運動麻痺、関節のこわばり、うちみ、くじき、慢性消化器病、痔疾、冷え症、病後回復期、疲労回復、健康増進
12.運用について
加水: なし
加温: あり(入浴に適した温度に保つため加温)
循環ろ過: なし
塩素消毒: なし(「毎日完全にお湯を入れ換え十分清掃しているため消毒はしていません。」と記載)
13.運用備考
浴槽投入量: 不明(※記載なし)
特記事項: 入浴剤は使用していません。
14.総評
本源泉は、温泉法上の温泉の定義、および鉱泉分析法指針が定める療養泉の規定を「溶存物質(ガス性のものを除く)総量1,000mg/kg以上」によってクリアしている療養泉です。
浴槽内の運用においては、源泉温度が40.9℃であるため入浴適温に保つための「加温」こそ行われているものの、「加水なし」「循環ろ過なし」「塩素消毒なし」で運用されており、毎日完全換水を実施。
白金の湯
1.源泉名 伊香保温泉(西沢の湯第1号・3号・4号の混合泉)
2.湧出地 不明
3.泉質名 無し
温泉法第2条の「温泉」に該当(メタけい酸含有)
※溶存物質総量が 1,000 mg/kg 未満、かつ源泉温度が 25 ℃未満の冷鉱泉であるため、特定の療養泉泉質名には該当しません。
(このような温泉を「単純泉」と偽装している温泉地に過去遭遇したことがあります)
4.泉温 源泉15.5 ℃ (浴槽 42 ℃)
5. p.H. 6.0
6.ラドン(Rn) 不明
7.湧出量 不明
8.分析日 2008年9月12日
9.温泉基準値超え成分(温泉法による)
成分名: メタけい酸 66.1 mg/kg(基準値50 mg/kg以上)
10.療養泉基準値超え(鉱泉分析法指針による)
成分名: なし(該当成分なし)
※泉温が 25 ℃未満であり、溶存物質総量(ガス性のものを除く)が 238 mg/kgで 1,000 mg/kg に満たないため、療養泉の基準を満たしていません。
11.浴用の適応症
この温泉の適応症: 不明
12.運用について
・加水 なし
・加温 あり
・循環ろ過 あり
・塩素消毒 あり
13.運用備考
・浴槽投入量 不明(※記載なし)
特記事項: 「入浴剤は入れていません。」、および「毎日完全に浴槽温泉を換え充分清掃し」との記載があります。
14.総評
本源泉(西沢の湯第1号・3号・4号の混合泉)は、源泉温度 15.5 ℃、溶存物質総量(ガス性のものを除く)が 238 mg/kg と療養泉の規定値には達していません。
ただし、温泉法第2条別表に定められた特定物質である「メタけい酸」を 66.1 mg/kg(基準値 50 mg/kg 以上)含有しているため、法的に「温泉」としての基準をクリアしている冷鉱泉です。
実際の浴槽運用においては、源泉温度が低いため「加温」が行われており、衛生管理の目的から「循環ろ過」および「塩素系薬剤による消毒」が実施されています。
その一方で「加水」による希釈は行われておらず、毎日浴槽のお湯換えて清掃を行う運用。
◇配湯距離2.5kmにおける成分減衰予測(学術的アプローチ)
黄金の湯の源泉湧出地(石段街最上部奥)から当ホテルまでの引湯管の歩行距離は約2.5km、徒歩45分相当の長距離である。この物理的距離輸送に伴う自然エイジング(減衰)の予測は以下の通りである。(TMGP独自調査及び推測含む)
↓ 伊香保温泉源泉地付近の景色


溶存鉄イオンが約20%〜50%の自然減衰
管内での僅かな酸素接触と温度低下により、利用施設に届くまでに約半数が水酸化鉄(III)の微粒子(相変化)へと変わり、導入管壁へ沈殿(スケール化)する。
カルシウムイオンおよび炭酸水素イオン:約5%〜15%の減衰が予想される。
遊離二酸化炭素の脱ガスに伴う石灰華(炭酸カルシウム)の析出・共沈。
ナトリウム、塩化物、硫酸イオン:非析出性の一価の主イオンは物理的に減少しない。
◇黄金の湯なのに「無色透明」から想定する成分消失の要因
伊香保の黄金の湯のアイデンティティは、総鉄イオンが7.23 mg/kg含有され、これが空気に触れて茶褐色に変化することにある。

しかし、当ホテルの浴槽においてケロヨン桶に汲み湯した黄金湯が「無色透明」であった事実は、上記の距離による自然減衰によるものと推定される。
↓ 黄金の湯と表示された浴槽(赤色に塗装)と桶に汲んだ湯


原因(推定):源泉からの距離と配湯システム(石段を滑り落ちてから配湯)やホテルの貯湯槽での滞留 。



2.5kmの輸送を経て貯湯槽に長時間滞留した湯は、2価鉄が3価鉄へ酸化され、赤サビ状の巨大な凝集物(フロック)を形成する。
通常ならこれが浴槽で激しい濁り湯となるが、透明であることから、ほぼ鉄分が消失していると推定。黄金の湯の掲示版には「循環ろ過無し」とされている。
黄金の湯の無色透明の理由を開示していただきたいところだが、フロントでの問い合わせに対して、当方が納得できる理由はなかった。
■ 「小間口(こまぐち)権利」と良泉宿の構造的序列
伊香保温泉における伝統的な配湯システム「小間口(16か所の木製分岐口)」の仕組みを鑑みると、「伊香保で良泉を求めるなら石段街上部の宿」と言われる理由は物理的・地政学的に自明である。
源泉に近い上流の宿ほど、空気に触れる時間が短く新鮮な状態で湯が直入される。参考までに、小間口からの距離と引湯管の熱収支・成分管理における優位性の序列を整理しておく。(TMGP独自調査及び推測を含む)
順位宿泊施設名小間口権利・運用実態成分減衰リスク
1位 千明仁泉亭
一号小間口の主要権利を単独規模で所有。大堰最上流で分岐され、自館浴槽までの距離が最短。全浴槽で非加水・非加温のかけ流しを維持。減衰影響極小(生源泉に最も近い)
2位 岸権旅館(石段街250段目付近)
敷地内に専用の小間口を有す。熱損失と酸化を防ぐため、1階の大浴場「又左衛門の湯」へ最短距離で直結。減衰影響極小(推定。生源泉に最も近い)
3位横手館 / 丸本館 (石段街上部〜中腹)
小間口から敷地が数十メートル以下で隣接。特に丸本館は小さな浴槽設計により、貯湯槽での滞留によるエイジング(劣化)を排除。減衰影響小(推定)
4位森秋旅館黄金の湯の主要な小間口権利を継承。大浴場から客室露天まで満たしているが、大型棟のため、館内配管の総延長が上記3軒よりやや長くなると推定。中
■ 総評:知らないと損をする温泉の現実と、ささやかな充足感
ひびき野の浴槽前で、成分の自然なエイジング(熟成)ではない、見た目の成分消失の現実に直面し、当方は立ち往生せざるを得なかった。鉄分(温泉のアイデンティティ)は減衰していると思われる状況であり、バルク成分も激減しているように感じた。
しかし、この事実を知らずに「名湯・伊香保の湯」として満足して帰る消費者が多いのが、温泉大国日本の現実である。
知らないと損をする。「温泉の表記と実態」について、当方にさらなる猛勉強への動機付けを与えてくれたという意味においては、当ホテルには感謝している。
大量調理という安全最優先のマニュアルに守られた食事と、無色透明な伊香保黄金湯の実態(入浴日について)。
これらはすべて、大型旅館という均一化された商業システムが導き出した「合理的な妥協の産物」である。
ツアーという枠組みの中で、そのシステムを冷静に観察・検証する旅として割り切るならば、これはこれで一つの教訓に満ちた、ささやかな充足感を与えてくれる滞在であったと言える。
この年を最後に、私は旅行会社手配の温泉旅行には参加していない。すべて事前に温泉分析書を取り寄せて納得の上、予約しています。(それでも裏切られることもありますが・・・)
関連記事
・全国観光記事目次ページリンク集,国内,国外,温泉,記念館,美術展,博物館,西国巡礼,国宝,御朱印,↓


