石臼の回転数と「碾」の文字にみる製粉工学へのアプローチ。岡崎市『手打ちうどん石挽き蕎麦 ゆう麺』実食検証。

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石臼の回転数「16回転/分」と「碾」の文字にみる、製粉工学への理論的アプローチ

目次

■ ブルーベリー品種リレーの構築と、偶然の入店

当日はゴールデンウィーク期間中に開催されている即売会へ赴くため、同行者(妻)と共に「ブルーベリーファーム岡崎」を訪問。狙っていた特定品種は惜しくも完売であったが、代替品種およびファーム調合の液体肥料を調達した。

これにより、我が家のブルーベリーは計6品種となり、夏から秋にかけて切れ間なく収穫期を繋ぐ「品種リレー」の基盤が整った。もっとも、家庭菜園の庭植え苗の中には2~3年モノの若苗も含まれるため、今回導入した新苗を含め、今年は花も実もつけさせないよう早期に摘果(てきか)を行い、株自体の栄養成長へ動力を集中させる方針である。
車内でそのような栽培管理の論議(一方的な解説だが)を交わしながら、帰路に立ち寄ったのが『手打ちうどん石挽き蕎麦 ゆう麺』である。

 当店は岡崎市緑が丘の、日常の動線からは少々外れる通りに位置する。
以前一度アプローチを試みたが、あいにく不定休日に遭遇して断念した経緯がある(休業日はInstagramにて告知)。
4年前にリニューアルされたという店内は明るく衛生的で、現代的なファサードを構築している。
客席配置において「個室は乳児(6か月まで)連れ家族専用席」との明確なゾーニング表示がなされている点は、多様な顧客層への配慮とホスピタリティの観点から非常に好印象である。

■ 石臼の回転数「16回転/分」がもたらす製粉工学へのアプローチ

 当店は「石挽き」「手打ち」を掲げており、店内調理・店内製麺であることを聴き取りにて確認した(当日の蕎麦粉の産地についての開示もあったが、当方の不覚によりメモを失念したことを付記しておく)。

 特筆すべきは、店舗メニュー等に記された「石臼の回転数は16回転/分」という具体的な数値である。

 穀物製粉工学、および食品物理化学の観点からこの数値を紐解くと、極めて合理的な技術的根拠が浮かび上がる。
石臼による製粉は、上下2枚の石の噛み合わせ面における「剪断力」と「摩擦力」によって蕎麦の組織を破砕するシステムである。この際、石臼の回転速度が上がると、石の摩擦によって「摩擦熱(ジュール熱)」が発生する。
蕎麦粉は熱に極めて脆弱であり、温度が上昇すると、含有される揮発性の香気成分(アルデヒド類など)が空気中へ飛散し、タンパク質の熱変性によって蕎麦独特の粘弾性や食感が著しく損なわれる。

 一般的に、熱発生を最小限に抑え、風味を最高形態で維持するための石臼の限界回転数は「毎分15回転から20回転」とされている。当店が採用する「16回転/分」という速度は、生産効率(製粉量)を一定程度確保しつつも、摩擦熱による品質劣化を極限まで回避するための、工学的なデッドラインを見極めた緻密な設計であると評価できる。

■ 「挽きたて」ではなく「碾きたて」の文字をあてる思想の推察

 当店は、一般的な「挽きたて」という表記ではなく、「碾きたて」という文字を意図的に選択している。この文字転換に込められた思想を推察する。

 「挽く」という漢字は、弓を引き絞る、あるいは手前に引いて回すという「動作」や「工数」に主眼が置かれた文字である。対して「碾(てん/うす)」という文字は、石偏(いしへん)に「展(平らに広げる、連なる)」という構成からも分かる通り、「石臼という固有の道具を用いて、素材を平らに押し潰しながら、均一に粉砕・展開していく現象と質」そのものを指す。

 つまり、当店が「碾きたて」と表記する背景には、単に「製麺の直前に粉にした」という時間的フレッシュさ(挽きたて)のアピールにとどまらず、「自店に据えた石臼(碾き臼)の特性をコントロールし、摩擦熱を抑えて蕎麦のポテンシャルを均一に引き出した粉である」という、道具と技術に対する絶対的な矜持を表現するための、言語的差異化戦術であると推察される。

メニュー

■ 実食検証:天ぷざるそば(2,080円)と、とろろ冷やしそば

 前述の「16回転/分」で碾かれた蕎麦は、産地近くの新蕎麦期のような突出した青い香気(官能評価:最高値)とまではいかないものの、粉の持つ素朴な穀物香が奥にしっかりと残っている。
麺線のエッジ、およびアルデンテのような適度な反発力(食感)は良好であり、手打ちならではの技術的完成度は上々である。
うどんに関しても「手打ち」表示があり、地域性を反映した岡崎らしい「もろこし(とうもろこし)系」や、中京圏固有の「ころ(香露)」の品揃えもあった。冬場であれば八丁味噌煮込みを選択したであろう。

天ぷらは同行者とシェアして検証。

 揚げ方の視覚的洗練度は天ぷら専門店には及ばないものの、加熱コントロールは適正。特筆すべきは「キス」である。業務用の冷凍開成形品を仕入れて揚げるチェーン店が多い中、当店は生から店内で包丁を入れ、開いたものを使用している。身のふんわりとした食感と固有の風味が保持されており、調達・調理における明確な差異化が確認できた。

 蕎麦湯は、近年流行している「茹で粉を別途加水して粘度を極端に高めた別製の濃いタイプ」ではなく、開店直後特有のサラリとした「薄いタイプ(釜揚げそのままの素朴な状態)」。
古来、東京の老舗などでは「蕎麦湯の濁りは(湯の管理が悪い)蕎麦屋の恥」とされた時代もあったが、現代は「濃厚さ」を求める顧客からのクレーム対策として意図的にドロリとさせる店が増えている。
当方はどちらの設計であっても、その店の思想として受け止めるが、当店の薄い蕎麦湯は、実直な出汁の風味を最後にすっきりと味わう上で、極めて自然な形態である。

★とろろ冷やしそば 1180円 

 同行者が好むぶっかけスタイル。とろろの粘性と気泡の抱き込み具合、および粘弾性の特徴から、原料は長芋と推察される。シャープな辛汁と長芋の多糖類による滑らかな喉越しが、手打ち蕎麦の食感とうまく連動している。

■ 総評:ささやかな感動を呼ぶ、技術の裏付け

 大袈裟な看板や誇張された表現を排し、明るい店内で淡々と提供される、16回転の「碾きたて」蕎麦。

 提供スピードの合理性の中に、キスの店内開きといった手仕事を忍ばせ、現代の効率化一辺倒の飲食チェーンに対する静かなるアンチテーゼを示している。
産地情報の正確な記載など、さらなる表示の透明化(情報開示)への進化を期待しつつも、岡崎の地で実直に石臼を回し続けるその姿勢には、食の現場を歩んできた者として、ささやかで心地よい充足感を覚えざるを得ない。良店である

・ゆう麺
インスタグラム 
愛知県岡崎市緑丘2丁目8-6
℡0564-54-5717

そば

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この記事を書いた人

食彩品館がゆく」は食彩品館とTMGP合同記事。
商業施設と観光。時々神社仏閣。日本温泉科学会員、日本温泉地域学会員、温泉観光士,温泉名人検定合格,温泉ソムリエ,温泉分析書マスター。研究テーマは「全国各地の温泉分析書を現地現物確認し、源泉データを温泉地別に比較。温泉地環境と温泉資源の運用方法」
ラーメンソムリエ。

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