おじさんの 四神の銘品
世の中には、特定の年代が身につけると妙にしっくりくるブランドがある。 例えばロレックス、モンベル、TUMI、ニューバランス。

もちろん、どれも若い人が使っているし、女性にも愛用者は多い。それでも中年から初老の男性が身につけると、「ああ、なんとなく分かる」と思わせる何かがある。別に悪いブランドという意味ではない。むしろ逆である。どれも品質が良く、実用品として優秀で、長く使える。
だから厄介。
「どうしてモンベル?」と聞けば、「機能が良くて値段も手頃だから」。
「どうしてニューバランス?」と聞けば、「歩いても疲れにくいから」。
「どうしてロレックスなのですか」と聞けば、「長く使えるし、資産価値もあるから」。
いずれも正論。
正論を積み重ねていった結果、本人には一点の迷いもないのに、外から見ると立派な「おじさんスタイル」が完成。 モンベルを着て、ニューバランスを履き、TUMIを持ち、時間を見るときはロレックス。モンベルとロレックスはちょっと相性が違うかなと思ったら、G-SHOCKでもApple Watchでも良い。
本人に「おじさんっぽい」と言っても、おそらく苦笑するしかない。なぜなら本人には、全部選んだ理由があるから。
こう考えると、「おじさんブランド」というのは単に中高年男性の購入者が多いブランドではないように思う。
重要なのは、「これを選んでおけば間違いない」という安心感ではないか。
若い頃のように、毎回新しいブランドを探したり、流行を追ったりする必要もない。失敗を避け、性能を確認し、自分に合うものを選ぶ。
それを何年も続けているうちに選択肢が固定される。
これが「おじさんブランド」誕生の一つの理由ではないかと思う。
■モンベルおじさんは強い
スポーツ・アウトドア関係で最も分かりやすいのはモンベルだと思う。デザインより機能。ブランドの格より性能。必要なものが一通り揃い、価格も比較的納得しやすい。
最初はレインウェアだけだったはずなのに、気がつけばダウン、パンツ、帽子、手袋、リュック、傘までモンベルになっている。
山ですれ違うウォーキングツァーの団体は特に愛用者が多い。場所としては尾瀬あたり。
最初は大手スポーツショップで店員から勧められたストアブランドを買わされる。次はノースフェイスかモンベルかとなると、どうしてもモンベルを選んでしまうのが特徴。
そして本人に理由を聞くと、「いや、性能がいいから」 と答える。その回答そのものが、さらにモンベルおじさん感を強くする。反論できないところがまた困る。
■ニューバランスは足元から完成する
ニューバランスも強い。特にグレーやネイビー系。中高年男性が履いていても不自然ではないどころか、妙に馴染む。最近はスーツで闊歩する人も見かける。
理由を尋ねると、「長く歩いても楽なんだ」「足に合うんだ」 となる。
これも正論。
若者が同じ靴をファッションとして履いていても、中高年男性の場合は購入理由が足腰の話になる。
ここで年代が分かれる。
■アシックスとミズノもグレー地帯
アシックス、ミズノも同じ系統に入りやすい。どちらも長年スポーツに関わってきた日本人男性には馴染みが深い。学生時代から知っている。品質への信頼もある。
ミズノなどは「昔からミズノだから」という一言でブランド選択が終了する場合がある。
もはや商品を選んでいるというより、人生の延長線上にそのブランドが存在している。
■パタゴニアは「昔から着ている」が価値になる
パタゴニアは少し種類が違う。これも中高年男性の愛用者は多いが、単純な「おじさんブランド」と言ってしまうと、少し違和感がある。
パタゴニアは耐久性が高く、修理しながら長く使うという考え方を以前から持っている。
したがって愛用者が、「これ、もう15年着ているんだ」 と言ったとしても、新しい物を買えないという話ではない。むしろ本人は少し誇らしげだったりする。古くなるほど本人の中で価値が上がっていく。
おじさんブランドというより、持ち主と一緒に歳を取っていくブランドなのかもしれない。
私自身、パタゴニアには少々複雑な感情がある。
自然環境を守るという考えそのものに異論はないが、環境運動への積極的な関与については、私には共感できない部分もある。特に緑豆のような強い活動姿勢には距離を置いている。
一方で、パタゴニアというブランドそのものには思い入れがある。私は1970年代の雑誌「POPEYE」を知る世代。 当時のアメリカ西海岸文化は、今よりずっと遠い世界だった。
ローラースケート、ドジャースのジャケット、ホットパンツで有名なリンダロンシュタットのレコードジャケット。 明るい日差しの下にあるカリフォルニア。ああ、懐かしの西海岸。

後年、仕事でアメリカへ出張した際、ロサンゼルス近郊のベンチュラにあるGPIW(Great Pacific Iron Works)へ立ち寄った。
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ここはパタゴニアの原点ともいえる場所で、パタゴニア公式によれば、1972年に開店した同社最初の店舗である。現在もベンチュラの235 West Santa Clara Streetで営業している。そこで購入した「VENTURA」のロゴが入った商品は、今でも大事に保管している。
これは機能がどうこうという話ではない。その品物を見ると、出張で立ち寄ったベンチュラと、自分が若かった頃に雑誌で見ていた西海岸がつながる。
ブランドには、こういう役割もある。
パタゴニアは1985年以来、売上高の1%を環境保護活動へ拠出してきたと説明している。現在も環境団体への助成を続けている。その企業姿勢すべてに私が賛同しているわけではない。それでも、VENTURAのロゴが入った品物は捨てられない。ブランドへの評価と、自分自身の思い出は別なのである。
これも歳を重ねた人間のブランドとの付き合い方なのかもしれない。

■では「おじさんブランド」にならないブランドは?
マムート MAMMUT
(マーモットではない)
逆に、中高年男性が使っていても「おじさんブランド」とは呼ばれにくいブランドもある。
私が好きなのはマムート。私は以前からマムート愛好家で、ウエリ(ウーリー)・シュテックのファンでもあった。スイスには6回程しか入国していないが国内着用率はぶっちぎり一位の感。


テレビの登山系番組を見ていると、これはあくまで私の印象だが、出演するガイドの人たちはマムートのヘルメットやウェアを着用している割合が高く感じる。
一方、一般の出演者はモンベルやノースフェイスが多いように見える。
この差が面白い。
マムートは登山用品としてはよく知られたブランドだが、モンベルやノースフェイスほど「誰でもとりあえず選ぶブランド」にはなっていない。
少なくとも私にはそう見える。
ここが「おじさんブランド化」しにくい理由の一つではないかと思う。
私は普段履きにもマムートのローカットモデルを使っている。特にマンモスマークが気に入っている。
病院や秘湯的な共同浴場などで靴箱に靴を後ろ向きに入れておくと、背面のマンモスマークですぐ自分の靴が分かる。
特に昔からある黒地に赤いマンモスの組み合わせは目立つ。ところが、このタイプの靴はなかなか入手できない。以前は欧州系の海外通販を使って購入していた。
誰かに見せるためのロゴではない。自分で靴箱を見て、「あった」 と確認するためのマンモス。
ここまで来るとブランド好きというより、単なる自己満足。
■靴底までミシュラン
さらに私が気に入っていたのが、愛用していたマムートの靴に採用されていたミシュラン製アウトソール。以前は自家用車のタイヤもミシュランだった。
そこで私は時々、こんな冗談を言っていた。
「車のタイヤもミシュラン。靴底もミシュラン。私は料理店のミシュラン自慢が嫌いなので、ミシュランを毎日踏みつぶしている」
相手によっては洒落にならない。それでも自分では結構気に入っていた。
ところが最近、車のタイヤを交換しようとしたところ、ミシュランが以前よりかなり高くなっていて購入を断念した。したがって、このネタも現在は使用不能。少々残念。
■ノースフェイスは嫌いだが、「おじさんブランド」ではない
ちなみに私はノースフェイスが好きではない。これは品質の話ではなく、単純に私自身の好みの問題。「これサンフランシスコで買った」と国内未発売グッズを見せたら知人達は「なんだ?ノースフェイスかっ」とちょっと下に見られたのが副次要因。
ただし「おじさんブランドか」と聞かれれば、違うと思う。むしろノースフェイスは、特に BALTRO LIGHT、 NUPTSE 、 MOUNTAIN DOWNなどのダウンジャケットは世代を越えて普及しすぎた。
中高年男性が着ていても、「ノースフェイスおじさん」 というより、「またノースフェイスか」という感じになる。
モンベルとはここが違う。モンベルを着た中高年男性は「モンベルおじさん」。ノースフェイスを着た中高年男性は「またノースフェイス」。マムートを着た中高年男性は「お、マムート」。私にはそんな違いがある。(個人の感想・印象なので反論不要)。
■「おじさんブランド」の正体
結局、「おじさんブランド」とは何なのか。品質が悪いわけではない。古臭いわけでもない。むしろ良い製品が多い。
問題は、良すぎて「これを選んでおけば間違いない」というところまで定着してしまうことではないか。
そして中高年男性は、失敗を避ける。一度良いと思ったものを長く使う。ブランドをころころ変えない。機能を重視する。値段に見合う価値を考える。結果として同じブランドに集まっていく。
だから「おじさんブランド」は、メーカーが作るものではなく、愛用者が長い年月をかけて作るものなのだろう。
一方で、私のマムートのように、「なぜこれなのか」 という理由が何個も出てくるブランドもある。
ウエリ(ウーリ)・シュテック、マンモスマーク、黒地に赤、靴箱で見分けやすい、ミシュラン製アウトソール、欧州通販で探してまで買う。
パタゴニアなら、VENTURAのロゴを見ただけで、若い頃に憧れた西海岸と出張で訪れたベンチュラを思い出す。
ここまで来ると、単に「間違いがないから選ぶ」のとは少し違う。
ブランドを選んでいるのか。それともブランドに選ばされているのか。おそらくその両方。
もっとも、そんな理屈を延々と語りながらマムートの靴を履き、何十年も前に買ったVENTURAロゴの商品を大事に保管している時点で、傍から見れば十分に「こだわりの強い初老のおじさん」である。
そう言われたら、私も苦笑するしかない。
そして思う。「小僧にはわかるまい。早く60歳を超えろ」「昔は“30歳以上の奴らの言うことを信じるな”と言っていたが、今は“スマホの言うことを信じるな”と言いたい」。



